ディレクターの仕事とは中間管理職のようなもので、さまざまな人間の間に立たされながらうまく調整して仕事をスムーズに進めていくことである。
クライアントの要望に応えるべくプレッシャーを感じながらも、社内のスタッフの言い分も吸い上げていかなければならない。どちらかを偏って大事にしすぎては、片方は不満を抱くことになる。不満をゼロにすることは難しいにせよ、それぞれが心地よく仕事ができるよう絶妙なバランスを取ることがディレクターとしての重要な役割である。
私は、デザインやサイトのコーディングといった仕事を受けているが、あくまでディレクターであり、デザインやコーディングのスキルはない。これはこれで少なからず問題というか不便に思うこともあるのだが、ディレクター自身が触り程度のクリエイティブのスキルを持っていることによる弊害もあると感じている。
知識やスキルはあるに越したことはないと思う。しかし使い方を間違えると、返って仇になるということを忘れてはならない。例えばデザイナーやエンジニアから転身してディレクターをやっているのであればまだしも、ディレクターはクリエイティブな領域は専門外である。専門のデザイナーやエンジニアには到底及ばない知識やスキルである。
しかしながら、時として「このくらいなら自分でも…」という判断で対応してしまう。
この”よかれと思って・・・”と判断することが実はとても危険である。
〈ディレクター自身がつい対応してしまうケース〉
・クライアントから質のクレームがあった
例)そもそもデザイナーのセンスに 問題がある。それなら自分が代わりにやろう
・クライアントからタイトなスケジュールを要求された
例)担当に依頼していたら(担当だけで対応していたら)間に合わない。
このくらいなら自分でもできそうだから自分でやろう(自分も一部手伝おう)
クレームに近しい修正やタイトなスケジュールの要望がくると“どうにかしなければ”と焦ってしまう。しかし、その気持の焦りから自分自身が手を出してしまうのは尚早である。何がダメだったのか、なぜそのスケジュールが必要なのか、自分で対応することを考えるのではなく、担当がきちんと対応できるよう、クライアントと調整することが大事である。
そもそもデザインなどの意図というのは作った本人でないと分からないことがほとんどである。そこに、専門でもないディレクターがどうこうしようとしても、意図はどんどんずれていくし、センスもプロではないのだから品質は劣化していく。
そして、さらによくないのは、このディレクター自身が手を動かしていることが、クライアントには見えていない場合である。クライアントはデザイナーのセンスを疑いはじめ、不安を覚えていく。そうすると、次から依頼をしてもらえないということになる。
次回から依頼がなくなった場合、仕事を失ったことはもちろん大きな痛手だが、結局何が原因だったのかを正しく把握できないのも痛い。残念ながら、クライアントの多くは、丁寧に原因を教えてくれない。「デザインが気に入らなかったから」といった抽象的な内容で終わることがほとんどである。
クライアントが見切る決断をしたのは、ディレクター自身が対応していた部分かもしれない。デザイナーに任せていれば、よい改善案ができたかもしれない。そういったことが分からなくなる。そうすると、また同じ失敗を繰り返すことになる。
「餅屋は餅屋」というように、専門のところはきちんと任せる。ディレクターは、自分が手を動かせることが大事なのではなく、いかにクライアントの要望を汲み取りクリエイターに伝えられるか。まずはこの調整(橋渡し)が重要な役割である。
状況に応じて自分自身で手を動かすことも必要なことはあるが、手を出すタイミングやどのくらいの範囲までにしておくのかを見極めないと、自分自身の行動でクリエイターの信頼が失われたり、更には先の仕事にまで影響が及んでしまうということを忘れず、目の前のクライアントの言葉に左右されず広い視野を持って仕事をしよう。